芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

小さな暗黒

それは突然流れ出て来た そう言ってよかったと思う

決して夢ではなかった

妄想でも まして冗談でも

 

開いていた

理由は知れなかった

驚愕したまなざしでそれを覗いていた あなたと二人だけで

 

奥は見えなかった

小さな暗黒だった そう言えばいいのか

優しくて とても柔らかそうだった

 

あの時

思い切って手を伸ばせばよかったのかもしれない

わたしにとって 生涯の不覚だった

 

もう あなたもこの世にいない

だから流れ出て 開くことはなかった

小さな暗黒は 二度と帰らなかった