芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

空洞

 もう会議は始まっているらしい。 

 まず議題を何にするかな、ポツリと誰かがそんな言葉を落とした。議題も決まっていないのか、ざわめきが噴き出して、怒号が飛び出した。待て、しかし、確かに、右手の方からしっかり断定する発言があった、いったい、議題とは何だ、いまさら我々に論ずるに値することが存在するのか。まばらな拍手と口笛。左手の方からは、もう一度根源的な問題から論争しようじゃないか。一瞬、静寂が来た。それならば、中央やや後方から声がした、宇宙から始めるか、人間からか、生命からか、いっそのこと神だ、神と免財布、いや免罪符から始めようじゃないか。いいぞ、伊達男、根源的だ、ナイスガイ、いいじゃんか! たまにはお食事くらい誘ってよ、拍手喝采が巻き起こった。

 私はたまらずドアをわずかに開けて、目を隙間にくっ付け、会場を覗き込んだ。驚いたことに場内には虫一匹いなかった。いまだに拍手喝采は鳴りやまなかったが、無人の空間だった。腐った紅色と爛れ切った紫の肉塊状の空洞がビラビラ振動していた。