芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

ホセ・ドノソの「別荘」

 ホセ・ドノソの小説を初めて読んだ。

 1980年代半ば辺り、日本でもラテンアメリカ文学のブームがあり、集英社から「ラテンアメリカの文学」全18巻が出版されたりした。ボクもブームにのって、ボルヘス、マルケス、フエンテス、コルタサルやフアン・ルルフォなどを読んだ記憶がある。しかしなぜかドノソの代表作「夜のみだらな鳥」は読まなかった。

 

  「別荘」ホセ・ドノソ、寺尾隆吉訳、現代企画室、2014年8月10日発行

 

 「別荘」という小さな空間に無限に去来する権力闘争の幻想。登場人物の一人、ウェンセスラオは最終章に至って言う、「野蛮の最大の特徴は、権力を盾に自分の無実を主張することだとは思わないか?」

 幻想は、結局、この世の辛い現実から一時避難・逃避する屈折観念だとすれば、ラテンアメリカ文学は、その多くが幻想文学であり、極端なこの世避難・現実逃避の模範的作品群だ、1980年代半ば、ボクはそう思いながらボルヘスやマルケスを楽しんでいた。そして「別荘」、なんという悪夢だろう。おそらく現実が厳しければ厳しいほど、人は悪夢に近い暗喩で語りかけるのかもしれない。