芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

当たり前の話

あなたの

父や

母は

既にこの世にいない

彼等の記憶から

あなたは消えてしまった

 

あなた自身も消えてしまった

この世から

九年前に

 

あなたを記憶する人たち

妹たち 友人たち

あなたの息子たちでさえ

おそらく 年に一度

せいぜい 数度 思い出すだけだろう

もう ほとんど

あなたはこの世にいない

 

四十三年間

愛しあって

同じ屋根の下で暮らした

僕の記憶の中からも

あなたが消えてしまう時

そうだ あなたは完全に死んでいる

この世から

そして 僕の中から

 

たとえ 写真や文字

動画に残したとしても

物は 腐り 解体して

忘却される

 

いずれみな

塵と灰

この遺された塵と灰でさえ

まき散らされて

跡かたもなく 消えてゆく

ごらん あなた

死ぬことは 無になることだった

愛しあった歳月も 無になることだった

 

こんなことは

いまさら 言うまでもない

当たり前の話だが

あなたの命日が近づいていた