芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

ある旋律

 言葉というのはあらためて不思議な存在だと思う。ボクは毎日、早朝に愛犬ジャックと散歩するのだが、先月の17日、ぽっつりこんな言葉を呟いていた。

 

  悲しみは深く

  旋律は遠い

 

 いったいこれはなんだろう。おそらく、いまのボクにとっては大切な言葉なのだろうか。つづけてこんな言葉が口をついて出た。

 

  ありあけの月に

  合掌して

 

 ボクは無宗教なので、なにかに向かって合掌するなんてことはないのだが。しかしボクの意に反して心は合掌しているのだろうか。同時にまた、わけのわからない言葉がやってきた。

 

  すべてはいちじるしく混乱している

 

 意味不明の言葉だけが歩いている、もう辺りはすっかり明るくなって、ボクもジャックもすでに消えて、言葉だけが公園の中を流れる人工の川にそって。

 

  水音もない

  川を

  上流へ

 

 ここで言葉は絶えた。ボクとジャックはゆきやなぎの白い花の前に立っていた。最初の言葉を振り返って、もう一度ならべてみる。題して「ある旋律」

 

  悲しみは深く

  旋律は遠い

  ありあけの月に

  合掌して

  ―すべてはいちじるしく混乱している

  水音もない

  川を

  上流へ