芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

「臨床精神薬理Vol.25,No4Apr.2022」を読む。

 まったく個人的な理由だが、私は所謂「統合失調症」に深い関心を持っている。「芦屋芸術」のブログにもヤスパースやビンスワンガー、ミンコフスキーのこの病に関する論文の読書感想文を書いた。また、周知のとおり、ヘルダーリンやストリンドベリ、カフカ、ゴッホやムンクなど、詩人や画家にもこの病に苦しんだ多くの作家がいる。夏目漱石も統合失調症だ、あるいは、所謂「双極性障害」だ、そう診断されたことがあるという。

 

 「臨床精神薬理Vol.25,No4Apr.2022」 星和書店 2022年4月10発行

 

 私はこの本の特集に注目した。「統合失調症患者の身体的脆弱性:精神科薬物治療と寿命の短縮」、これがこの本の特集記事だった。私はこの本の「展望」と「特集」のすべての論文を読んでみた。

 要点だけを書けば、統合失調症患者の寿命は、一般の平均余命に対して十年ないし二十年短い。短命である。短命になる主な死因は以下のとおりである。

 ・自殺

 ・突然死(心血管疾患、心臓突然死、虚血性疾患)

 ・身体疾患への罹患率が高い。

 統合失調症の病因としては、遺伝的要因と環境的要因が研究者によって分析されているが、まだ究明途上だ、そう言っていいだろう。一九〇八年、ブロイラーがクレペリンの「早発性痴呆」を「スキゾフレニア」(日本では精神分裂病と翻訳、その後2002年統合失調症に改訳)という概念に変えてから、結局、いまだ統合失調症の病因でさえ不明であり、現在の治療方法は薬物による対症療法が中心だった。病因が分からなければ、結論すれば、病気ではないのかもしれない。現にそう主張する医師もいる。また、イタリアでは二十世紀後半にバザリアなどの運動によって閉鎖病棟が廃止されている。彼は、「自由こそ治療だ!」、そう言っている。わが国ではおそらく今でも精神病棟に入院して薬物治療をするのが主流ではないだろうか。少なくとも、私の経験によれば、二十年前後昔までは、そうだった。二十年前後昔とは言え、二十一世紀になって、もう二十二年たってはいるけれど。

 思えば、脳の前頭葉部分の神経細胞を切断して統合失調症患者の症状を緩和するロボトミーという手術が廃止されたのは、日本では一九七五年だった。ロボトミーで多くの患者が廃人に近い状態になった、そんなニュースを私は十代の頃耳にして、驚愕した記憶が残っている。新聞でも報道されていた。薬物の場合は、どうなのだろうか? 脳をいったいどのように調整したいのだろうか? その結果、患者の身体にいかなる変化がやって来るのだろうか? 統合失調症の治療の歴史を詳細に学ぶことは、ひょっとしたら、人間とは本来どんな特性を持った動物なのか、その一端を明晰・判明に理解することなのかもしれない。

 何事も一足飛びではできない。だが、私の老後の勉強課題の一つではある。