芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

スライスされたもの

 体は冷たくなっていた。

 先ほどまではまだガタガタ震えていたのだが、ぴたりと静止したまま、カチカチ固くなっていた。また、絶え間なく刻む音がした。それは時計の秒針ではなく、刃物に似た鋭い先端がカチカチ固まってしまった体を刻んでいるのだった。シコシコ、ゴソゴソ、ゴソシコ、ゴリゴソ、シコゴリ、ゴリゴリ、ゴソゴリ、ゴソゴソ……奇妙な連続音だった。

 最初、狭い穴から連続音が聞こえていたのだが、強烈な音の圧力で穴が破れ、辺りいちめん、さまざまな音が合唱した。未明まで住んでいたあちら側で発生したすべての生活音が、いっせいに騒いでいた。吐息や罵声、約束や裏切り、爆笑や嘲笑、愛やオナラなどが集中し凝縮して一本の鋭い刃先を合成し、冷たくなったこの体を切断して、シコシコ、ゴソゴリ、無数の断面にスライスしていた。

 もう男でも女でもなかった。あるいは、男でもあり、女でもあった。いよいよ秘密が暴露されようとしていた、ニンゲンとして暮らしていた秘密が。サア、最終段階だ、そんな録音テープが流れると、スライスされた断面がモウモウと吹きあがった。