芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

人間の記憶について

生成・発展・消滅する運動全体を自然の原理だとすれば、人間から生じる意識もまた、たとえば愛という意識もまた生成・発展・消滅するであろう。ボクの場合、ボクとそのワイフとの愛は43年間、生成・発展し、2014年7月19日午前5時13分にワイフが永眠することによって、ボクラの愛は消滅した。これが自然の原理であろう。

しかし、すでに消滅しているにもかかわらず、記憶の中では愛はまだ存在している。これは反自然原理といっていいだろう。つまり、ここでは、永遠の愛の方角へ、個別存在の普遍性の方角へ、意識しようがしまいが、ボクは墜落する。まことに畏怖すべきことではあるが、人間の記憶は明らかに自然原理を超越している。