芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

松岡祥男の「ニャンニャン裏通り」

 やっかいな本に手を出してしまった。何故やっかいかと言えば、著者が余りに博覧強記のため、この本に登場するさまざまな人々について私はほとんど無知であるばかりでなく、この社会や文化に対する著者の食いつき方の主体的な深さに、呆然として私は読み進んでいた。

 

 「ニャンニャン裏通り」(吉本隆明資料集・別冊1) 松岡祥男著 猫々堂 2019年12月13日発行

 

 文字どおり、対象に向かって飢えたハイエナのごとく食らいつくこの文章を読み終えて、成程、この粘り強さがなければ、「吉本隆明資料集」全191冊を、長い歳月をかけ、個人で編集・出版することは不可能だったに違いない。いや、それ以上に吉本隆明を原点に据えた事柄の真実に対する深い愛情がなければ決して出来ることではない、私はそう思った。

 ところが、著者が敬愛する吉本隆明についても、私は十九歳の時に少し読んだきり、そのままになっていた。それはひとえに私の怠惰な性格に起因しているのだろう。ただ、著者に断りもなくここで書き加えておきたいことは、過日、著者から吉本隆明の資料集43「高村光太郎(飯塚書店版)」、資料集89「シモーヌ・ヴェーユについてのメモ」をいただいた。おそらくこれらの本を贈呈されたのは、私が「芦屋芸術」10号や11号、詩集「詩篇えっちゃん」を著者に送ったからだろう。そして、ひょっとして著者は私の「対幻想」に驚いたのだろう。

 余談になるが、贈呈していただいた吉本隆明の二冊の本に対する私なりの読書感想文は既に「芦屋芸術」のブログに書いた。また、「高村光太郎(飯塚書店版)」に触発されて、十七歳の時に読んだきり本棚に立ち続けていた「高村光太郎詩集」(岩波文庫)を何度も読み返し、その読書感想文もブログに書いた。楽しい時間だった。素晴らしい読書体験だった。この場を借りて、松岡氏のご厚情に御礼申し上げる。

 ところで、松岡さん、残念ながら、ボクラの時代に、国家消滅の日、絶対平等の時はやって来ない、私はそんな気がする。