芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

黒いフスマ

 ボクと妻は南側にある兄夫婦の部屋を出て、隣に移り、フスマを閉めた。振り返ると、ボクラの部屋を挟んで、北側の部屋の畳にバケツが置いてある。そして、左の柱の陰から、前傾した父の首から上だけがヌッと突き出し、床を見つめている。

 床の拭き掃除でもしているのか……ボクはフスマを閉めようとするが、つるんと前転してそれは横倒しになって、北の部屋は丸見えで、まだ、父の横顔だけが柱の陰から突き出て、微動もせず、じっと床を見つめている。畳にバケツが立っている。

 何度繰り返しても、つるん、このフスマは前転し、横倒しになって、また、柱の陰から父の横顔が突き出ている。白っぽい中で、この一枚だけ、上貼りが黒いフスマだった。