芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

大田洋子、を読む。

 この書、「屍の街」は、一九四五年八月六日、「ヒロシマ」で被爆した著者が、その事実と、その事実に対応する主観とを言葉で表現した作品である。驚くべきことであるが、著者は、紙やペンが戦火で消失し、避難先で障子紙やちり紙を代用して、二三本の鉛筆をもらい、被爆した恐怖におびえながら、わずか三ヶ月前後でこの作品を書き尽くした。このいきさつを、著者は序文で簡潔にこう述べている。

「日本の無条件降伏によって戦争が終結した八月十五日以後、二十日過ぎから突如として、八月六日の当時生き残った人々の上に、原子爆弾症という恐愕にみちた病的現象が現れはじめ、人々は累々と死んで行った。
 私は『屍の街』を書くことを急いだ。人々のあとから私も死ななければならないとすれば、書くことも急がなければならなかった。」(本書271頁)

 「屍の街・半人間」 大田洋子著 講談社文芸文庫

 これ以上語ることは、ボクの力に及ばない。おそらく原民喜の「夏の花」と双璧をなす、いかなる批評や批判をも、沈黙してそっと退けている言語作品だ、ボクはそう思う。