芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

ローザ・ルクセンブルク選集第二巻(1905~1911)

 一九六九年といえば、もうトテモ古いお話になってしまうが、その頃、マッセンストライキという革命戦略を煽動する日本の新左翼があった。この本を読んでいて、ふとそんな二十歳前後の思い出が蘇ってきた。「芦屋芸術」がローザ・ルクセンブルク虐殺百周年の行事として開催した「ローザ・ルクセンブルク読書会」第二回は、このマッセンストライキ、つまり革命的大衆ストライキがメインテーマである。

 

 ローザ・ルクセンブルク選集第二巻 現代思潮社 1969年12月20日新装第一刷

 (訳者 高原宏平、田窪清秀、野村修、河野信子、谷川雁)

 

 お気付きの方も多々あるかとも思うが,訳者の中に、「谷川雁」という名前が書かれている。

 

 おれは村を知り 道を知り

 灰色の時を知った

 <中略>

 無明の時のしるしを

 額にながしながら おれはあるきだす

 歩いてゆくおれに

 なにか奇妙な光栄が

 つきまといでもするというのか    (谷川雁「或る光栄」から)

 

 いずれ、谷川雁を再読して、「芦屋芸術」のブログに書く時が来る、本を開いたまま、目も空ろに、ボクはしばらく自問自答していた。言うまでもなく、芦屋芸術主宰の「谷川雁読書会」もまたボクひとりぼっちの読書会であるが。

 さて、大衆ストライキは、一九〇五年のロシア革命からほとんど自然発生的に勃発する。ただ、一九〇五年一月二十二日のペテルスブルクの流血事件に端を発して、全ロシアに燃え上がった革命の炎、あの「戦艦ポチョムキン」の水兵の叛乱、クローンシュタットのツアーの宮殿前で起こった水兵の蜂起、これらすべてが忽然として発生したものではない。ローザは、一八二五年のペテルスブルクの暴動から始まってロシア革命に至る民衆の闘争の歴史を語る。そして、結論として、革命につながるもっとも有力な闘争として、「大衆ストライキ」に言及する。(特に「つぎはなにを」110~122頁を参照せよ)。

 この第二巻でもっとも重要なローザの発言は、一九〇六年九月十五日ペテルスブルクで発表された「大衆ストライキ・党および労働組合」だろう。今、読んでみても、スバラシイ! ほとんどの人はソウダソウダ、首をたてに振って納得するに違いない。こんなことを言うと命がけで革命運動をやっている人から猛烈な批判を浴びるのを覚悟で、ボクは書いておくが、第一巻でもそうだったが、ローザのアジテーションは極めて高級な詩作品と言っていい。ユーモアにあふれていてつい笑ってしまうばかりではない。ここぞという時、レッシングやゲーテ、シラーなどの言葉をちりばめ、聴衆を熱狂させたに違いない。

 もちろん、周知のとおり、ローザは革命家であり、何度も投獄されながら、革命という理想に生き、終に虐殺された人である。しかし、彼女の「理想」は主観的・神秘的な「空想」ではなく、歴史的・社会的に形成された現実を理解して、その土台の上にしっかり立ち上がった主体的な「理想」だった。手短に言えば、本来商品ではない人間を商品として売買する賃労働という資本主義の矛盾を否定する、商品化された人間を解放する、そういう「理想」だった。だからこの現実を維持しよう、あるいは自分の利益がもっとあがるように改悪しようとする反動勢力に殺害された。一九一九年のローザやリープクネヒトたちが虐殺されたドイツ革命の敗北の後、おそらくローザが懸念していた通り、反動勢力がさらに加速し、一九二九年の経済恐慌を経て、ナチスのファシズムが確立する。

 脱線した。話を本筋にもどそう。「大衆ストライキ・党および労働組合」は、一九〇五年のロシア革命に至るまでのロシアの革命の歴史をわかりやすく語り、また、その発展の中から発生した、政治闘争と経済闘争がしっかり結びついた大衆ストライキを説明している。そればかりではなく、第七章では、党と組合との関係が論じられる中で、一八九五年から一九〇〇年の経済好況期の経済繁栄・政治停滞でドイツに生じた本来の目的を忘却した労働組合への批判が詳細に言及される。例えば、労働組合専従職員層の出現等によって、組合員と組合幹部との関係が分断されていく状態に警告を発している。この辺りは、第二次世界大戦後の日本の労働運動を考えるにあたっての基礎文献として必読だろう。ただ、日本は米国に占領されているという根本的な状況の相違はあるが。

 ところで、ボクは一介の場末の自営業者だった。もう半ば引退して、午前中だけ仕事をしている身分。言うまでもなく、自営業者は、社会的に判断すれば、プチブルジョア=小市民層であり、どちらかといえば自分の商売の現状を維持したい、いや、さらにもっと儲けたいと思って毎日暮らしている、いわば反動勢力の近くに立っている人間だろう。何故「ローザ・ルクセンブルク読書会」を企画したのか、はたして採算は取れるのか!? 全身硬直、顔面蒼白、ほとんど茫然自失している。