久しぶりに地区の総会に出向いた。三年ぶりだった。いつも地区の福祉問題やイベントを今年はどうするとか、そういった話題を議論して、毎年この地区の三分の二くらいの住民は参加しているだろう。だが私はこの二年間は仕事と些事に追い回されて欠席していたが、やっと一段落して、今年度の総会には出席することにした。スマホで客と長話をしてしまったため、少し遅れてしまったのか、既に自治会長の基調報告は始まっていた。
皆様はまだお気付きではないようにお見受けいたしますが、そしていつからとはまだ特定出来はしませんが、いつの間にかこの地区一帯は見えない司令部の支配下にあります。彼等がいったいどこからやって来たのか、どんな目的を遂行しようとしているのか、この地区の警察は捜査を開始していないのか、緊急事態ならばなぜ自衛隊が出動しないのか、念のため警察署に問合せしてみましたが、そんな事実はない、この一辺倒の回答を繰り返すばかりであります。
しかし地区役員の数名の方も司令部の存在を確認しています。後ほど役員の皆様にもご報告していただきます。
さて、最初にご報告しました通り、まず、今年の秋のイベントをどうするか、皆様のご意見を戴きながら総会を進めてまいりたいと存じます。司会はイベント委員のNさんにお願いします。では、Nさん、バトンタッチしましょう。
仕事も些事も片付けて、もうすっかり身軽になっていたとばかり思っていた。しかし必要以上に身軽になり過ぎてしまったのだろうか。私はすべてを失っていた。財布も。セカンドバッグさえも。
夜の街を酔っ払ってさまよい続けていたのは確かだった。でも、どこでこんなに泥酔するまで飲んでいたのか、もう記憶には残されていなかった。いや、違う。記憶をもう一度手繰り寄せようという意識さえ崩れ去って、脳の中はまるで灰になって空虚な空間を漂っていた。
といって、すべてはグレー、ではなかった。むしろ、濃淡のある、微細なつぶつぶ状態、だった。
あったよ。……どこかのお店で見つかった。空になった財布と空になったセカンドバッグが。……これ、あなたのものでしょ……ほら、これよ、これ……そんな声がしていた。どこか、の、どこか、は、まったくわからない、不明。ただ、頭の上の方から、声だけが。
けれど、これだけは確実だった。
辺り全体が、先程から、ずっと、黒白の濃淡のある、微細なつぶつぶ状態、だった。
司令部から笑い声が聴こえて来た。