芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

一夜、中秋の名月の。

 昨夜、中秋の名月ということで、七時前に家を出た。近くの親水公園でゆっくり楽しもう、夜空を見あげながら向かった。

 たくさん人が出ていると思っていたが、誰もいなかった。公園をさまよいながら、さまざまな場所から月をスマホで撮っていると、薄闇に沈んだ木陰に誰か立っている。小犬を連れた女性が私と同じように夜空を仰いで月を撮っていた。

 犬が好きな私は小犬と戯れながら言葉を交わした。彼女は四年前に夫をガンで亡くしていた。私も九年前の七月十九日、すい臓ガンで一か月余りの短い闘病生活の後、妻を喪った、そう語った。すると、彼女は驚いたようにこう返してきた。彼女の夫は食道と胃をガンに侵され、末期で治療は出来ない。ただ食べ物が喉と胃を通らないのでそこだけ手術して物が食べれるようにした。その後、元気で一年七ヶ月くらい一緒に生活出来たけれど、彼の誕生日、七月十九日の翌日、突然亡くなってしまった、そういう話だった。お互いの運命ともいえる日、七月十九日が偶然に一致している。覚えず顔を見合わせていた。

 このご時世に名月を楽しむ人なんて、余り見かけないんだろうか。彼女以外に公園で見かけたのは、ご近所の顔見知りの女性一人だけだった。愛する人を失ったりした孤独な人などが、夜、月に誘い出されるのだろうか。

 中秋の名月、不思議な一夜だった。

 

*写真は、昨夜七時過ぎ、親水公園で撮った中秋の名月。