芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

世界の詩集第九巻「ヘッセ詩集」

 そして すべての罪悪と

 すべての暗い深淵からの

 たった一つの 熱望

 終極の憩いがみたい

 そして ふたたび帰ることなく

 墓場にたどりつきたい という熱望(「のけ者」第三連、141頁)

 

 訳者星野慎一の解説によれば、この詩は第一次世界大戦の最中、一九一五年に出版された「孤独者の音楽」という詩集に収録されている。ヘッセは、一九一四年十一月十四日、「新チューリヒ新聞」に西欧的キリスト教的心情の立場からドイツの国粋的狂気を批判したため、ドイツ人たちの憤激を買い、ジャーナリズムはあげて彼を攻撃した。そうした状況の中で書かれた孤独な詩である。しかし、ヘッセの晩年を除いて、彼はもともと孤独な旅人だった。この詩集を読んでみて、あらためてその思いを深くした。

 

 世界の詩集9「ヘッセ詩集」 片山敏彦、星野慎一訳 角川書店 昭和42年5月10日初版

 

 この詩集もワイフの遺品である。彼女は十九歳のとき、この詩集を手にした。

 ボクはヘッセの小説は十代の頃、かなり読んでいる。しかし彼の詩は「ドイツ詩集」のようなアンソロジーで何篇か読んだだけである。彼が二十九歳の時に書いた有名な詩「霧のなかで」もアンソロジーで読んだ記憶が、今、この文章を書きながら、鮮やかに蘇ってくる。

 このたび、まとまったかたちで彼の詩を読んで、この詩人の、人間の孤独を語る、静かな、ごてごてした飾りを捨てた語り口がイイナ、そう思った。二度の離婚を経て、一九三一年、五十四歳で二ノン・ドルビンと結婚し、この世を去るまで孤独ではない平和な生活を暮らせたことは、おそらく文学の成功以上に、彼の晩年を幸福で満たしたに違いない。