芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

診察室 第二夜

博士が語る)

 君はなんだなあ、結局、夢を見ているんだ、夢を。

 夢を見るのはいい。だが、君のように、夢を生きちゃあ、ダメだ。わかるかい? そうだろ? ベッドから起きて寝間着姿で長靴を履いて、近所の公園で遊ぶなんて。君はもう七十を過ぎてるんじゃないか。明け方に、滑り台の天辺から万歳して大声を張り上げながら滑り降りるなんて。

 オイ。聴いてるのか。せいぜい、コーヒーを飲むのも、一日三杯以上は止せ。いいかい。夢の中を歩きながら、コーヒーを飲み続けたら、いずれ、脳が崩れてゆく。脳がちょぼちょぼになるぞ。ねえ君。こんなことって、考えるだけで、とても怖い。ぞっとする。脳が味噌汁状になるのは恐ろしいことじゃないか。耳の穴から脳の汁が出て来るぞ。

 いいかね。君。これだけは守り給え。何度も忠告する。夢を生きるな。コーヒーは一日二杯までにしろ。

 

(患者が答える)

 先生。せめてコーヒーだけは四杯にしてください。朝、昼、晩、未明。この四杯に。金輪際、夢を歩きません。