芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

レーモン・ルーセルの「ロクス・ソルス」を読む。

 ずいぶん昔に買った本だが、いまさら手にして開いてみて、私はこんな感慨を持たざるを得なかった。この本を最後まで読んだ人は、この日本に現在何人いるのだろうかと。

 

 「ロクス・ソルス」 レーモン・ルーセル著 岡谷公二訳 ペヨトル工房 1987年7月19日第二刷

 

 奇書といってもさまざま。読みやすい奇書もあれば、読みづらいのもあるだろう。この本は後者だ。奇妙な妄想家が組み立てた短編物語の集積場。子供のままで大人になってしまった奇才が織り成す超自然世界。科学者カントレルが死体を蘇生させその死者の生前の出来事を再生する実験演劇を中心にして、これでもかと構成した長編小説だった。若いころ読んだ時よりこの歳になって再読した方が面白かった。何故かフランスのアンチ・ロマンを想起した。例えば、ミシェル・ビュトールの「時間割り」(1956年発表)、ロブ・グリエの「嫉妬」(1957年発表)、クロード・シモンの「三枚つづきの絵」(1973年発表)。彼等は生前に評価された。ただ、「ロクス・ソルス」は1914年に発表されているのだが、生前ほとんど評価されていない。

 誇大妄想の極致からやってきた作品、そう言っていいと思うのだが、この本の著者ルーセルは親から譲り受けた裕福な財産を浪費して破産。何故ならこれだけの作品も世間から認められず自費出版、あげくの果てに五十六歳で自殺している。