芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

世界の詩集第二巻「ボードレール詩集」

 ワイフの遺品、世界の詩集の第二巻は「ボードレール詩集」である。ボードレール、つまり言葉の毒薬、そう考えて大過あるまい。

 若い頃、ボードレールは比較的よく読んだ作家だった。人文書院から出ている「ボードレール全集」全四巻も一行目から最終行まで読んだ。「人工の楽園」に影響され、ド・クインシーの「阿片常用者の告白」、「深き淵よりの嘆息」も読んだ。「阿片常用者の告白」で思い出すのは、その原書「The Confessions of An English Opium-Eater」を残すところ五分の一頁ぐらいで、ワイフの死がやってきて、読書を中断し、いまだにその本を開いていない。おそらくボクがこの世を去るまで、そのまま本は閉じられているだろう。

 あるいはポーの全集を読んだのもボードレールの影響だろう。ポーの「ユリイカ」を読んで感動した記憶、ボクにとってこの「ユリイカ」がポーの最高傑作だが、この喜ばしい記憶も、もとをただせばボードレールのおかげだと言っていい。もちろん、フローベルやサドに手を染めたのも、ボードレールという悪魔の教えに従ったまでだ。

 

 世界の詩集第二巻「ボードレール詩集」 村上菊一郎訳 角川書店 昭和42年8月10日初版

 

 ワイフがこの詩集を手にしたのは十九歳の時だった。彼女はこの言葉の毒薬を飲んで、酔っ払ったのか、ゲロしたのか、いまとなっては知るすべはない。それはともかく、久しぶりにボクは超自然の言語作品の完成者、ボードレールの言葉に触れて、十代から二十代にかけて激しい言語欲望に火を点けた悪魔に挨拶したのだった。月並みな言い方だが、ボードレールはボクの青春だった。さらば、ボードレール。