芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

アルファさん 第十二夜

 浜辺に車で乗り入れた。ボクラは砂浜の先、海の水際まで歩いた。愛犬は喜んでずいぶん遠くまで駆けだした。泳ぎ出した。黒いラブラドールレトリバーだった。

 辺りは白くキラキラ輝いて、たがいの姿も見えないくらいだった。光の中からアルファさんの手だけが突き出ていた。ボクはその手を握って歩き続けた。

 ボクの体も光に包まれていた。光から突き出したたがいの手だけがふたりの心を結んでいた。ボクは車の運転ができない。きっとアルファさんが運転してこんなに遠くまでやって来たのだろう、置き去りにした過去を思い出しながらボクは彼女の手を握りしめていた。

 

 海の彼方から何かひらひらしたものがいっぱい飛んでくる。なんだろう。ものすごい数だ。海の面を反射した光が結晶して、小さな紙飛行機みたいになって、ふたりの周りをひらひらしていた。無音のままで、ひらひらしていた。