芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

研究室便り

 われわれは不純物を排除し、極めて純化された環境で実験を繰り返した。その結果、必ず一定の状態が再現するのを確認した。これによって、われわれはかく結論するのをもはや躊躇すまい。すなわち、この婦人患者の頸部はゴム状物質であると。

 ここにわれわれは実験の詳細を報告し、よって同学の士の参考に供したい。

 

 われわれ研究員は、日ごろ頸部における頑固な疼痛を訴える婦人患者に、モルヒネおよびステロイドの大量投与を試みたが、いぜん疼痛の除去・改善はみられなかった。

 その間、患者の頭部を九十度ないし百八十度ねじって身体検査をしていたところ、ふいに頭部はクルリと回転して元の位置に帰るという特殊なる体質を発見した。

 この特殊体質に注目したわれわれ研究員は、さらに患者の頭部を三回転ないし五回転ねじりまわしてから両手を離すと、直ちにクルクル回転して元の位置へ帰るばかりか、反作用で約百八十度逆回転し、その後ふたたび元の位置へ帰ってくるのが観察された。

 

 (かくしてこの婦人患者の頸部はゴム状物質にて構成せられているとの結論が報告され、また研究会の席上でただちに資料が提出された。この資料に基づいて、さらにこの頸部の構造を研究員は以下の通り簡潔に明らかにした。)

 

 この婦人患者を手術台にくくりつけて固定し、頭髪をつかんで引っ張ると、同時にゴム状の頸部も一メートルないし二メートル伸び始めた。最大限伸びきった地点で突然頭髪がかつらのごとく外れ、ツルツルになった頭部がパチンと音たてて元の首の位置に帰り、やはり患者は頸部の疼痛を訴えているのだ。

 

 <付記>

 最近、この症状の特効薬が開発された。早速この患者に投与したところ、強度のアナフィラキシーを発症。呼吸困難・意識消失・心停止などが顕著となり、三時間後、死に至った。厳格なる調査がなされた結果、特効薬と患者の死との因果関係は不明だった。