芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

あやめとはまぐり

 その一 あやめ

 

はるさめにじっとりした帯をとき

あやめの一夜がはじまりました

五月闇に沈んだ池のほとりから

 

あがりかまちまで

あやめはわらじをはいて 引きずって

宿のぼんぼりに浮かんだ濃い紅の

 

池のほとりのあやめ草

無理矢理 はなおを結びつけて

明かり障子に

 

わらじとはなお 帯の影が乱れほつれ

あやめ草 あやめもわかぬ

昔 そんな過失がありました……

 

 

 その二 はまぐり

 

はるさめは

はまぐりをぬらしました

 

はまぐりは

くちびるをぬらしました

 

それからふたりは たがいのくちびるも

ついでに ぬらしあおうとしましたが

 

だけどふたりはうつむいたまま もくもくとたべたのでした

はるさめとはまぐりを