芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

かゾットの「悪魔の恋」

 十八世紀のフランス文学を読み進んでいて、先日、レチフの「パリの夜」を読み終えた時、フランス革命のさなか、ギロチンで死刑になった作家を思い出した。早速、私はこの作家の作品を読んだ。

 

 「悪魔の恋」 カゾット作 「幻想と怪奇」創刊号(三崎書房、昭和48年4月1日発行)、同書第二号(歳月社、1973年7月1日発行)に連載

 (翻訳はすべて、渡辺一夫・平岡昇共訳)

 

 この作品は、降霊術によって出現した悪魔に愛された男、彼はアルヴァーレという二十五歳のナポリ王親衛隊付大尉だったが、二人の実らぬ恋を描いたものである。どこまでが現実でどこからが美女に変身した悪魔ビヨンデッタの創造した幻想世界なのか、現実と幻想が入り乱れて展開する主人公アルヴァーレの告白体の小説だった。二人の心理描写になかなか味があって、敢えて言えば、アルヴァーレ(人間)とビヨンデッタ(悪魔)とのフランス流恋愛心理小説だと言っていいのではないか。

 それはさておき、本題からは離れてしまうが、私はビヨンデッタが語った以下の言葉が少なからず気がかりになった。

 

 「あなたに住みついていただきたいのは、パリなのです。宮廷なのです。そこなら生活の手段だって、必ずございますわ。」(本書第二号217頁)

 

 カゾットは神秘主義者で、また、予言者だった、私はそんな噂を耳にする。確かに、上述した悪魔のささやきの通り、言うまでもなく悪魔は常に逆説を語る者だから、作者カゾットは一七九二年八月十八日、反逆罪で逮捕され、九月二日に娘エリザベットの努力で一端釈放されるが、九月十一日再逮捕、九月二十五日夕方七時、パリのカルゥゼル広場で断頭台に消える。

 念のため、私は先日読んだレチフの「パリの夜」の「第十二夜または四〇〇夜(一七九二年九月二日から五日にかけての大量虐殺)」、「第十三夜または四〇一夜(九月三日から四日まで)」、岩波文庫で言えば二三二頁から二五一頁までだが、再読した。カゾットの処刑には言及されてはいないが、約三千人の反革命容疑者が即席裁判で殺害されたと言われる九月二日の虐殺劇が、生々しく描き出されている。さらにネットで調べた情報だが、日本第百科全書(ニッポニカ)カゾット欄の植田祐次の解説によると、同時代人レチフはカゾットの死を悼み、書簡体小説「死後の手紙」をカゾット名で出版している。ちなみに、植田祐次は岩波文庫のレチフ著「パリの夜」の翻訳者だった。