芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

会議室

 それは空しい抵抗なのかもしれない。何故もっと早く気づかなかったのだろう。今となっては、もう手遅れなのだろうか。

 こんなうっとうしい話なんて、誰も聞きたくもないだろう。私が語り始めたならば、みんな耳を両手で塞ぐだろう。いや、耳栓をして平然とした顔で笑みさえ零しているに違いない。ホラ、こうやってあなたのお話に耳を傾けていますよ、少し右肩を私の方へ傾けながら。

 ややあって、彼女が机を叩いて、きっぱりこう言い切った。九年前に妻を亡くしてからしばらくして、ひそかに私は彼女を恋しく思い始めているのだが。

「上着の左の内ポケットを探ってごらん!」

 何ということだ。まさに彼女の言う通りだ。図星だった。私は赤面し、目を膝に落としてつい泣きべそをかいてしまった。内ポケットから、亡妻のあの財布が出てきた。