芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

後藤光治 個人詩誌「アビラ」6号

 充実した個人詩誌が送られてきた。言うまでもなく、詩も評論もすべて詩誌の編集発行者が一人で書いたものであるが、私の眼で読めば、ある一つの中心軸の回りを回転する作品群だった。

 

 個人詩誌「アビラ」6号 編集発行 後藤光治 2021年6月1日発行

 

 まず著者の七篇の詩作品を読んでみると、この内、「カプサイシン3」という詩を除いて残る六篇はすべて、過去に出会った人々の死の影が著者に親しく寄り添っている。言い換えれば、少なくとも著者の脳の内部には死者が生者として鮮やかに生きているのだった。とりわけ、「岩」という作品には最も身近な人、「母」の死の影が海の岩場の奇岩となって波の上に姿を現すのであるが、それは著者が幼年時代に母に連れられて訪れた海辺であり、そこでは多くの女たちが生業のために海草拾いをしていたのだった。もうこの世にはいないさまざまな海草拾いの女たち、著者の母もそのひとりではあったが、いま、さまざまな「岩」になってふたたび海辺に立つ著者の眼前に出現するのだった。

 付言すれば、「カプサイシン3」という作品も含めて七篇の詩群は私小説風なエピソードを最小限に圧縮して三、四本の線にして描かれた巧みな文章だった。「カプサイシン3」という奇妙な題は「激辛物語3」とでも翻訳すればいいのか、おそらく連作の三作目だろう。

 詩の他に三つの評論が収録されている。詳しくは論じないが、これらの評論と七篇の詩全作に共通しているのは先にあげた「ある一つの中心軸の回りを回転する作品群」といって大過ないだろう。私が表現した「ある一つの中心軸」とは、もっと端的に言えば、一言、「永遠」と言ってしまっていいのかも知れない。