芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

十和田操を読む

 九月の前半は雨の日が多かった、突如として空を破る激しい雨が。庭の水遣りをしなくて助かったけれど、ダイニングのテーブルに頬杖してぼんやりしていると、ニンゲンという生命体はけっきょくすさまじい天変地異で死滅するんだな、雨音の中からなぜかそんな妄想が浮かんでくる。

 

  十和田操作品集(冬樹社 昭和45年3月20日初版)

 

 ボクがこの本を買ったのはまだはたちそこそこだった。著者自身の自選集で31編収録されている。当然好き嫌いはあるのだが、例えば「戸の前で」という作品あたりから読んでみて、こういう文章もいいな、だったら次々読みすすんでいくのも、一興ではないか。

 十和田操の書いた作品は、一応、小説というジャンルに入っているが、彼は詩人との付き合いも多いようで、ひょっとしたらモダニズムの影響もあるのだろうか、物語の筋を中心におしゃべりするのではなく、さまざまなエピソードのかたまりを、時には擬音や奇妙な語り口で、つまり音楽としての言葉でつなぎあわせていく、31編の作品全体をゆっくり眺めてみれば、そんな印象をうけなくもなかった。

 若い頃、ボクは何編か読んでこの本を閉じた。もちろん青春なんてもうとっくに終ってしまったが、おそまきながら、六十も半ばを過ぎて、初めて十和田操作品集の全編を読んだ次第であった。