芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

後藤光治個人詩誌「アビラ」15号を読む。

 私は自分で個人誌「芦屋芸術」を運営しているのでこの著者が個人詩誌の発行を持続しているのに敬意を表している。

 

 後藤光治個人詩誌「アビラ」15号 編集発行 後藤光治 2023年9月1日発行

 

 全体は従来通りの構成だが、もちろん内容は違っている。紹介しておこう。

 まず巻頭に「ロラン語録」が置かれている。トルストイの孤独と栄光を圧縮して表現したロマン・ロランの言葉だった。

 次に、著者の「詩作品」が発表されている。全六篇。そのうちの一篇「岬」は既に著者の詩集に発表されたもので再掲載である。このあとに連載中の「ロマン・ロラン断章(15)」が続く。今回は<ジャン・クリストフ>(10)と<清水茂断章>。

 「詩のいずみ」では野沢啓の著書「ことばという戦慄」がかなり詳細にわたって論じられている。最後は「鬼の洗濯板」で今回の特集は<高野悦子の「旅に出よう」>。高野悦子の遺著「二十歳の原点」から「旅に出よう」という詩を引用し、六十年安保闘争や七十年安保闘争があった時代に自分自身の心の底から純化されて出て来た詩や短歌、フォークソングなどを論じ、現在の現代詩の不毛な状態を見つめている。逆に言えば、ひょっとすれば、現在の状態は他人に伝達不能な言語状況になってしまった、心の底で他人と共感するすべを失ってしまった、そんな時代なのかもしれない。

 著者の詩は、従来の故郷「吹毛井」を主題にしたおびただしい変奏曲から離れ、どこか違った場所からの言葉、そんな感じがした。ちょっと身軽になった、そんな感じか。