芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

アルファさん 第二十五夜

 時折ボクは阪神芦屋駅近くのカラオケスナックにぶらっと一人で立ち寄ることがある。夜十二時まで営業している。新型コロナという奇妙な感染症が流行して以来、客足はめっきり遠のいてしまった。一月二十五日、夜十時、ドアを開けると、客はボク一人だった。

 好きな曲を数曲歌ったきり、カウンターに座ってスタッフととりとめもないオシャベリをして過ごしているときに、アルファさんが入ってきた。「こんばんは」、ボクの右隣に座った

 閉店時間が来た。この時間帯、いつもタクシーで帰るのだが、今夜は芦屋川ぞいを二人で歩くことにした。我が家は芦屋川の河口の東側だった。

 もう午前一時に近いのだろう。

 誰にも会わなかった。

 闇の中で、二人きりだった。