芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

 買ったばかりの白い犬が二匹、逃げた。彼等の後ろ姿が地下街へ下りていくのが、見えた。後を追いかけて、あちらこちら探し回った。いままで、地下街にこれだけいろんな店があるなんて、ちっとも知らなかった。

 犬に関連する店をしらみつぶしに尋ねた。ペットショップ、ドッグトレーニングセンター、トリミングサロン、動物病院……そればかりではなかった。この地下街では、カフェやレストランばかりか居酒屋や映画館でもペット連れ可の店が多く、捜索にはとても手間取ってしまった。

 焦燥の余り、客が座っているテーブルの下を覗き込んだりするので、不審者扱いされ、胡散臭い目で見られた。門前払い同然で店員に追い返されたりもした。地下街は奥深く、どこまでも続いていた。いったいわたしは何を探そうとしていたのだろう。

 もっとも不可解だったのは、犬は地下街で迷子になっているはずなのに、郊外の道路を田舎に向かって車に乗って走り続けていることだった。そのうえ、わたしは車の免許証を持ってはいなかった。生まれてからこのかた、自転車や遊園地のゴーカート以外、車を運転した経験はなかった。だから、わたしではなかった。この車、誰かが運転しているのだろう。