芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

落山泰彦の「旅と俳句のつれづれ草紙」を読む。

 私は今までにこの著者の本を三冊読んでいる。「石を訪ねて三千里」、「石たちの棲む風景」、「私の青山探訪」。すべて芦屋芸術のブログに読書感想文を書いているので参考にしてほしい。

 著者の最初の著作は2011年2月発行だが、それ以来今年の2月までに十一冊出版している。驚くべきことだが、これだけのボリュームのある本をほとんど毎年書いていることになる。この度私は著者の最新刊を読んだ。

 

 「旅と俳句のつれづれ草紙」 落山泰彦著 澪標 2024年2月4日発行

 

 この作品は、著者の故郷「おくのはりま道」から始まり、北は北海道から南は沖縄まで旅を続け、その折々をわかりやすく平明に綴られた文章に収めている。そうした散文の中に、時折、一行の俳句が、あるいは数句が並んで登場する。そればかりか、春夏秋冬の四季を旅先で写す散文と俳句。また、空海を慕って、四国四十八カ所を巡り、そのあとお礼の高野山参りを散文と俳句で表現している。

 

  鈴の音やお遍路一人濡れてゆく(本書64頁)

 

 この句は。四国四十八カ所巡りの第一番霊山寺で口をついた三句の内の一句だった。

 俳句を携えた旅は国内から海外へと続く。韓国、中国の大連、インド、台湾、マレーシア、カンボジア、果てはエジプト、イギリス。ドイツへ。

 さらに中国のあちらこちら。著者は中国へ31回も渡航している。そのつど風景や人事などを散文と俳句に託して歩き続けている。

 広州の食堂では、入り口附近にカメ、スッポン、ヘビ、ハリネズミ等が飼われている。そこで広東料理を食べた時の一句。

 

  食堂で静かに待つ身の蛇を見し(本書130頁)

 

 どんより曇ったまるで墨絵のような桂林の街を訪ねた折、突然驟雨がやって来て、

 

  スコールで墨絵の世界消え失せる(本書131頁)

 

 北京を秋に訪れた時の俳句の中に、こんな哀愁を感じさせる一行があった。

 

  物売りのバス窓叩く秋の暮(本書136頁)

 

 この旅はモンゴルへと続き、最後に、「俳句雑感」で著者の俳句に対する思いを語ってこの本を閉じている。

 

  紙芝居長き人生年の暮(本書158頁)