芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

吉本隆明の「文学の原型について」を読む。

 松岡祥男さんからこんな本が送られてきた。わたしが送った「芦屋芸術」のお礼だった。

 

 「文学の原型について」 吉本隆明資料集185 発行所/猫々堂、2019年5月25日発行

 

 この本は今から四十年前後前に発表された作品で構成されている。この当時の吉本隆明の「死」という概念への思い、また、人間特有の「類」と「個」への言及、そして例えば戦後日本の革命運動に挫折した若者のその後の生活における内向の問題などが語られている。確かに六十年安保闘争や七十年安保闘争後の七十年代後半から八十年に至って革命運動の退潮と、それに伴う生活への埋没・退廃の日々をいったいどのように暮らしていくのか、闘争に真剣に参加した若者であればあるほど、のっぴきならない課題であったろう。そうした状況への吉本隆明なりの応答でもあるのだろう。

 それはさておき、巻末でも触れてはいるが、この本の中心をなしている二作品、高知市夏季大学の吉本隆明の講演「文学の原型について」(1980年8月15日)、その翌日開催した「吉本さんを囲む会」との談話「吉本隆明氏を囲んで」(1980年8月16日)の記録はこの資料を編纂した松岡祥男にはとりわけ深い思い出であるだろう。彼は別のところでも吉本隆明についてこう語っている。

 

「高知との関わりについて言いますと、一九八〇年八月に高知市の夏期大学の講師として来高しています。

 この時、初めてお会いしました。吉本さんは私たちの要望に応えて、講演の翌日を空けてくださり、三十人ほどの集まりに出席してくれました。そして、そのあと私の家に足を運んでくれたのです。種﨑で泳いだ潮の感触と、あなたがたの顔が、高知の印象として刻まれています、と手紙に書かれていました。」(松岡祥男著「吉本隆明さんの笑顔」260頁、発行所/猫々堂、2019年12月13日発行)

 

 この本は、吉本隆明の八十年代前半の思想の一端と共に、その底辺では、こうした人間の出会いのひとつの姿を描いている。