芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

九年目の水泳

久しぶりにプールへ行った

飛び込み台から飛び込んだものの

泳ぎ方がわからなかった

なんとか犬かきでもがきながら二十五メートルを泳ぎ切った

へっぴり腰でターンしていよいよもがき苦しんでいるうちに

体から水泳の記憶が蘇ってきた

平泳ぎだった

そうだ

ボクの得意は平泳ぎだった

ターンして水中でひとかきひとけりすると頭を水面に出し

ふたかきみかきで二十五メートルを泳ぎ切った

そのままいつまでも泳ぎ続けた

水は異様なくらい濃紺に近い青だった

九年前までは

いつもあの人と二人で泳いでいた

死別してからは

二度とプールへ行っていない

いや 行けなかったのだが……

濃紺に近い青の中

未明 ひとりで泳ぎ続けていた