芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

波だけで

押し寄せる波

 

海でもなかった

川でもなかった

そもそも水なんてなかった

波だけが騒いでいた

 

浮かんでいるものも

流されるものもなかった

ゴミや 木切れや ビニール袋……いかなる漂流物もなかった

死体も揺れてなかった

 

不思議だ

あなたの思い出さえ浮かんでこない

手も 首も

胴体も

 

毛も

両眼も 耳も

何も浮かばない波

あちらこちらで 無が喚いている

 

ひたひた してください

どうぞ ひっくり返って ぴくぴく引きつり

破れてしまって ずんずん千切れて

ぴんぴん 乱れて ぴたぴた 崩れて

 

ねえ 波だけで どこまでも ぺちゃぴた してください