芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

目撃者

 キッチンのカウンターに置かれた電気ポットの中の湯が、どんどん冷たくなっていく。電気コードを調べてみたが、コンセントから外れていない。とうとう常温になってしまった。

 スローモーションビデオでも見ているみたいに、ポットの蓋が無音のままでゆっくり開き、中から直径一センチくらいの水のロープが顔を出した。見てる間にずんずんロープが伸びて、水道の蛇口の中へ帰って行った。これを還流というのだろうか。

 わたしは台所に立ったまますべてのことの次第を目撃した。

 ものの数十秒の出来事だった。水音さえしない。けれどもポットは既に空になっていた。